露地から露地へ
バニラスカイみたいな夕方が何日も続いて、
19時半の街はまだ薄明るい。
大手町のビル群はテレワークとは無縁で、
皇居の暗闇をバックにきょうも煌々と輝く。
降ったり止んだりの雨が広場の芝生を濡らしていき、
日比谷まで続く松の木が海辺のそれのように見えて嬉しい。
5月なのに日中は夏みたいに暑いから犬との散歩も朝の早い時間に行かなければいけなくなった。
私も犬も朝に弱いから大変なのだ。
神田から大手町に抜けると近未来みたいな景色が広がっている。
私はごちゃごちゃした神田の街や再開発の進んでいない日本橋の路地を犬と一緒にクネクネと歩くのが好きだけど、ビルとビルの間に思わぬ景色が見れたりするから近未来もそう悪くない。ビルとビルの間に見えて嬉しいもの、東京タワーと富士山と昇りかけの月。
池袋周辺にはたくさんの路地がある。
路地を見つけては入り込む飼い主のせいか、
犬もすっかり路地好きになった。
ドクダミに占領されている暗渠を見つけ、先頭を歩くのは決まって犬で、
私はその後ろに続く。
路地から路地へ歩き続けるといつの間にか区をまたいでいたりする。
こんなにも遠くに来てしまって、
帰り道どうするのよーと犬に話しかけながら探検隊なので私たちはへこたれない。
「露地から露地へ好き好んで歩いているときのじぶんのイメージは好奇心と安堵感で象徴される。露地裏の好きなものはたいてい高所恐怖の心情を持っているに違いない」吉本隆明